舌に痛みを生じる疾患は多岐に渡ります。その多くは「客観的所見」と言い、医師・歯科医師が診査をすると何らかの異常を特定できます。しかし、「客観的所見」が無くても、痛みを感じることがあります。専門外であったり、口腔顔面痛の分野に関する知識の少ない医師にかかったりすると、「客観的所見」がなければ、「異常ありません」、「正常です」、「精神的なものでしょう」と判断されてしまうことがあります。
一般的な舌の痛みは下記の診査・検査で原因を特定できる場合がほとんどです。
① 視診や触診
もっとも一般的な診査です。舌にキズや炎症、あるいは腫瘍を疑うようなシコリを触れないか確認をします。簡単な診査ですが、とても重要な診査でもあります。医師の診断技術(知識と判断力)が問われます。
② 血液検査
ビタミンやミネラルの欠乏によって、貧血を生じることがあります。これらの貧血は、舌に異常をきたし、痛みを生じることで知られています。
③ 感染症
真菌感染症(口腔カンジダ症)などにより、舌に異常をきたし、痛みを生じることがあります。一般的には口の中の粘膜を、専用の綿棒で拭って検査を行います。口腔カンジダ症の原因となる菌 (C. albicans 等) は、健康な人の口からも検出される「口腔常在菌」に含まれますが、何らかの原因により異常に増殖をすると、舌の白み・赤み・痛みなどの症状を引き起こします。
当院には、「上記の検査を受けたけれども、異常がないと言われてしまった」や、「原因不明である・精神的なものである」などと言われてしまった患者さんが多く来院されます。そのようなケースでは、下記の状態などが痛みの原因となっている可能性が考えられます。
① 口腔灼熱症候群(Burning Mouth Syndrome)または、舌痛症(glossodynia / stomatodynia)
「舌痛症」をネットで検索すると、「精神的なものである」という記述が多く目に留まると思います。当院を受診される方の中には「治療法がないと言われてしまった」とおっしゃる方も少なくありません。精神的な因子が全く関与していないと言うことはできませんが、「客観的所見に乏しい痛み」の全てが精神的なものとも限りません。
欧米では舌痛症は「Burning Mouth Syndrome」と呼ばれ、精神的なものではなく、「痛みを感じる機能の、機能異常」であると言う認識が一般的です。口腔灼熱症候群について、詳細はこちらのページをご覧ください。
② 末梢性・中枢性 神経障害性疼痛
口腔灼熱症候群・舌痛症と混同されてしまう事が多い病名ですが、痛みの特徴(性質やパターン)が異なります。親知らずを抜歯する際に、舌の神経を刺激することが不可避である場合があります。この刺激が原因となることがあります。それ以外にも、水痘・帯状疱疹ウィルスや、単純ヘルペスウィルスなどのウィルスによる刺激が痛みの原因となることもあります。
③ 心因性疼痛
「痛みを感じる機能」には異常が無いにも関わらず、精神的なバランスが崩れてしまった時や、精神疾患などが原因となって痛みを生じる事があります。
④ 腫瘍による神経の圧迫、悪性腫瘍の神経浸潤、頭蓋腔内占拠性病変
舌自体に異常が無くても、脳まで繋がっている「舌の痛みを感じるための神経」が何らかの刺激を受けると、舌の痛みを生じる事があります。12脳神経スクリーニング検査において異常を認める、治療の効果が現れない、一般的な痛みのパターンに当てはまらないなどの場合には、脳MRI検査や、他科の受診を提案させていただくこともございます。
舌の痛みの原因は多岐に渡り、目に見える原因もあれば、そうでない原因もあります。診断のためには、それぞれの痛みの特徴やメカニズムに関する知識が求められます。また、痛みの原因が1つではなく、複数の疾患が一つの「患者さんが感じている痛み」を作り上げていることもあります。それぞれの疾患に対して、的確なアプローチをすることで、痛みを改善させることが当院の治療コンセプトとなります。